お約束満載のアメリカンホラーを作ろう!

そもそもの発端はこれだった。アメリカンホラーには「お約束」シーンがある。
曰く「助けを呼ぶ電話は必ず通じない」
曰く「逃げるための車は必ずエンジンがかからない」
曰く「呼び寄せた警察官は必ず役に立たない」
曰く「逃げるときは、安全な戸外ではなく、追いつめられる危険な二階へ走る」
曰く「前半イチャついているカップルは、最初に殺される」
アメリカンホラーのファンは、こうした「お約束」がスクリーンに登場するのを待ち、「お約束」にツッコミを入れて楽しむ。
そんな楽しみ方のできるホラーが、日本でもできないだろうか?
徹底的にそうした面白さを追求した作品。
これはやってみる価値がある。
プロデューサーの市川誠と監督の細井尊人は、そのために脚本家として島枝冬樹と松本沙希を招集した。
どうせ一話では、無数の「お約束」を消化しきれないだろう。
そう考えた市川は、最初から続編を作る前提で、二本分の脚本を書くように計画を立案した。
数回のミーティングを重ねた後、四人は「Noise」「NoiseⅡ」の二本の脚本をアップした。
ここで市川と細井が、続編「NoiseⅡ」の脚本の設定に着目する。
ある研究のために集められたスタッフが、秘密維持・プライバシー保護のために、SOHOで研究を進め、必要な指示・情報共有は、メールやチャットで行う。このスタッフが暗殺者に狙われる。
メンバーの誰かが殺されかけて、その様子はチャットで映し出されている。
しかしそのメンバーがどこに住んでいるか、どこで仕事をして いるかわからない
。仲間でありながら、ただネット上で繋がっているだけの存在。
ホラー映画としての恐怖感だけでなく、ネット社会が内包する不気味な恐怖。
言うまでもなく、これは本編「CHAIN」の原型である。
これをクローズアップした作品ができないか?プリプロのカルテットは再考を重ね、本編の完成を見ることとなった。

シナリオミーティングの重要性

つづく...

今回、制作にあたり、最も考えたのが人選である。
本当に力のある人材。埋もれていても才覚のある人材。そういう人材が欲しい。
そういう人材を発掘したい。その思いがあった。
傑出した演出力を持つ細井尊人監督、類稀な映像センスを発揮する撮影監督の谷基彦氏、
リアルな殺害シーンを作り出す特殊メイクの土肥良成氏&hellip。
私の思いは、具現化されたと言っていいのではないだろうか。
そして具現化されたのは、スタッフだけではない。
主演の菅井玲さん、ベテランの渡辺裕之さんはもちろんであるが、お二人だけではない。
例えば圧倒的な存在感の井上幸太郎さんがいる。
ポツドールの舞台を拝見したときに身体が震えたのを今でも覚えている。
芝居カンの良さでは布川隼汰さんが抜き出ていた。
たちまちのうちに自分の位置を掴む感受性は彼ならではのものだろう。
もう一人、高橋明日香さんも、力のある女優さんである。
CHAINのオーディションで初めて彼女と出会ったのだが、撮影初日に殺害シーンというクライマックスをこなす力量は、今後を感じさせてくれる。
そして不思議な魅力を持つ大塚麻恵さん。
彼女が持つ「色気」は、彼女独自のものであり、代役がきくものではない。
こうした人材が結集したことが、クオリティを上げてくれたのは間違いない。